王子様と野獣


電車の中で、あさぎくんと並んで立ちながら、私はちょっと落ち込んでいる。
だって、完全に恋愛対象外を宣言されれば誰でもそうなるんじゃない?
私のほうは好きなんだからさぁ。

ここ数日の空回りぶりが、ひとりであさぎくんとの再会を夢見ていた小さな頃を思い出させて、気恥ずかしくなってくる。

馬鹿だなぁ、私。思い込みが激し過ぎる。
パソコンを貸してくれたのだって、ただの親切だったのに。勘違いして浮かれて、気が付けば同じ人に二度も恋をするなんて。

これ以上、図々しい勘違いはしたくなくて、それとなく一歩ずれてあさぎくんとの物理的な距離を開けた。
ところがあさぎくんは、私がよろけたものかと思ったのか、腕を掴んで支えてくれる。


「大丈夫? この時間なのに混んでるよね。座れればよかったんだけど」

「だ、大丈夫です。もうすぐ降りる駅ですし」

「アパートまで送るよ」

「え? でもあの、本当に大丈夫ですよ? 下りちゃったら終電には間に合わなくなっちゃうし」

「その時はタクシーを使うから、大丈夫」

「でも」

「……モモちゃんに何かあったら困るよ」


どうしてこんなタイミングで名前で呼んだりするんだろう。
こういうことされるから、勘違いしちゃうんだよ。

あさぎくんは、自分が美形だって自覚したほうがいいんだ。優しく愛想を振りまいていたら、皆に勘違いされちゃうんだから。
私だって……簡単に有頂天になってどんどん好きになっちゃうんだから……。

考えていると切なくて、私はあさぎくんの顔が見ていられなくなってうつむいた。
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