王子様と野獣


それにしてもと周りを見ると、少し離れたところに立っている人から視線をやたらに感じる。

あさぎくんの金髪はやっぱり目立つんだよなぁ。
基本は好意的な視線なんだろうけど、時折感じるのが刺さるようなねめつけるような視線。年配の人から見れば、この金髪はわざと染めているように見えるのかもしれない。

常にこんな風に視線にさらされていると思ったら、気が抜けないかもしれないね。
だからあさぎくんは、波風を立てないように誰にでも優しくして、穏やかな顔で笑っているのかな。

考えているうちに電車が止まる。


「……あ、私、この駅なので降ります」

「ああ、じゃあ俺も」

「でも」

「ほら、閉まっちゃうよ」


有無を言わさず、私の最寄り駅で彼もいっしょに降りてしまう。
アパートまで送ってもらったら、本当に終電に間に合わなくなっちゃうかもしれないのに。

こんな優しさはやめてほしい。
だって期待しちゃう。これは特別扱いなんじゃないかって思ってしまう。
恋愛対象じゃないというなら、こんなことしないでよ。

並んで歩きながら、何となく会話が途切れて足音だけが響く時間。
私の心の中は大忙しだ。

街灯のかすかな光を反射して、金の髪はキラキラと揺れる。あさぎくんは今も王子様だ。紳士的で、気配りができて優しい。

好き、なんて言っても、困らせるだけ。
だけど言いたい思いはドンドン高まっている。もとより、私は自分の気持ちを隠すのが上手じゃない。
こんな風に二人きりでいたら、好きって気持ちを抑えられなくなってしまう。

美麗さんでもダメだったのに、私に可能性なんてあるの?

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