王子様と野獣
「モモちゃん、この辺?」
「あ、あのアパートです。三階建ての。……恥ずかしいくらい狭いところなんですが」
この辺りは都会と言っても住宅街だ。周りには民家と似たようなアパートがいっぱい。その中でも、私が住むアパートは築十五年で周りの建物からは見劣りする。
「そんなことないよ。俺、小さいときはあんな感じのアパートに母と二人で住んでいたんだ。むしろ懐かしいかも」
「お母さんと……? お父さんは?」
不審に思って見上げれば、そんな私の態度にあさぎくんのほうが不思議そうだ。
「モモちゃん、知らなかった? うちの両親は再婚だから。小さい頃は母親と二人だったんだ」
「……そうだったんだ」
思わず敬語も飛んで行ってしまった。
ああでも、納得した。だからあさぎくんは金髪なんだ。
「じゃあ、本当のお父さんは外国人なんですね?」
「うん。母もハーフだしね。俺には西洋の血が四分の三はいってる。金髪なのはそのせい」
「ちょっとだけ疑問だったんです。どうしてあさぎくんだけ金髪なのかなって。でもあさぎくんとお父さん普通に仲良かったし、実の親子じゃないなんて思わなかった」
そう言ったら、あさぎくんが本当に嬉しそうに笑った。
「そう? それは嬉しい」
「お父さんのこと、好きなんですね」
こんな無防備な笑顔は、初めて見るかもしれない。再婚してできたお父さんは、いい人だったのだろうなぁ。