王子様と野獣
「……女の子の部屋に、こんな時間に入れないよ」
紳士的な言葉と微笑みに、いたたまれなくなって涙が出てきた。
「入ってほしいから誘ってるんです」
ダメだ。言ったらふられる。それが分かっているのに、どうして私は黙っていられないの。
「送り狼になってください。私、あさぎくんが初恋だった。……再会して、やっぱり好きって思って……だから」
「……モモちゃん」
「私と、……付き合ってもらえませんか」
勢いでしてしまった告白は、完全に空気を固めてしまった。
沈黙がつらすぎて、だけど答えを待つ私にはこの空気を緩める言葉は思いつかない。
あさぎくんは私に一歩近づいて、おそるおそる私の頬を触る。
「モモちゃん」
顔を上に向けられて、私の胸は期待に震えた。
キス……してくれるのかもしれない。
だけどその期待は直ぐに打ち消された。
「……ごめん、モモちゃん」
「い、今すぐじゃなくてもいいんです。ただ、そういう対象として見てほしいんです」
焦ってまくし立てる私の頬を、あさぎくんの両手が包む。ドキドキして、電気が走ったかのような衝撃を覚えた。
「ごめんね。モモちゃんのことは好きだよ。素直で、いつも元気で、周りを明るくしてくれて……。君みたいに素直になれたらと、何度も羨ましく思った。……だけど、恋愛はできない。俺は君のことを、いや、誰のことも幸せになんてできないから」