王子様と野獣
「どうして? 一緒にいてくれるだけで幸せですよ? 傍にいてくれるだけで」
あさぎくんの瞳が泳ぐ。さっきまではちゃんと顔も見れていなくてわからなかったけど、よく見れば彼もうっすら顔を染めていた。実は酔っぱらっているのかもしれない。でなければきっと、告白されるような隙すら、彼はつくらないかもしれないと思った。
「あさぎくん」
「ごめん。再会できたのが嬉しくて、距離を取り間違えてた」
「あさぎくんってば! 意味が分からない。好きだよって言いつつ駄目だなんて言われても納得なんかできません」
嫌いだとか言われれば、あきらめもつく。だけど、あんな風に言われちゃったら、その好きがいつか恋愛の好きに変わるんじゃないって期待しちゃうじゃない。
「本当のことを言ったら軽蔑するよ、俺のこと」
「しない。しません!」
「じゃあ言うけど」
あさぎくんは私の腕をぐいと持ち上げ、耳元に囁いた。その衝撃的な内容に、私は一瞬頭が真っ白になる。
「……え?」
「だから、無理なんだよ。今まで付き合った誰とも無理だった。そういう雰囲気になるだけで吐き気がして」
苦しそうに胸を抑えて、悲しそうにゆがんだ瞳が私を捉える。
「……俺は女性を抱けないんだ」
あさぎくんは私より二歳年上、二十四歳だ。ましてこのモテそうな容姿で、そういった行為がまだなんてことがあるの?