王子様と野獣



翌日は土曜日で会社はお休み。
昨日の衝撃でほぼ眠れなかった私は、朝方には考えるのを放棄していた。
私のポンコツな頭で考えていたって、どうせ答えなんか出ない。それより、思いつく行動をやったほうが何か切り開ける気がするもん。

まずは、と私は実家に電話をかけた。出たのはお母さんで、普段自分からはかけてくることのない私からの電話に、驚きを隠しきれない声だ。


『あらモモ、どうしたの?』

「お父さんまだいる? 聞きたいことがあるんだけど」

『いるわよ。イチくん、モモから電話よ』

『あ? わかった。十和、とにかく遅くなるなよ。……おう、百花。元気か?』


どうやら一番下の妹と何やら言い合いをしていたらしい。


「元気だよ。お父さん、あんまり十和に厳しくしちゃだめだよ。嫌われるよ?」

『厳しくなんてしてないぞ。ただ、男も混じって出かけるって言うから』

「中1でしょ? 大丈夫だよ。門限までに帰って来るって。あんまり言われると反抗したくなるんだからやめなよ」

『くっ……。分かったよ。ところでどうした?』

「聞きたいことがあるんだけど。昔さ、お父さんの同僚で馬場さんっていたよね」

『幸紀(ゆきのり)のことか? あいつとなら今でもたまに飲むけど』

「うん、そう。その馬場さんのお店の場所を教えてほしいんだけど」

『へっ?』

「行ってみたいんだよ。教えて、お父さん」


私の申し出は、父には予想外のものだったらしい。理由を問いかけるうわずった声で、慌てている父の姿が脳裏に自然に浮かんできた。

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