王子様と野獣
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父から【宴】の正確な住所を聞きだした私は、着替えを済ませてその店を目指した。
定食屋だというから、お昼時は混んでいるだろう。ラストオーダー付近の十四時頃を狙っていく。
「いらっしゃいませ」
店内に入ると、明るい声が出迎えてくれた。
見ると美魔女がそこにいる。定食屋さんにはもったいないくらいのハツラツ系美人は、おそらくあさぎくんのお母さん。
なんとなく見覚えがある……というか、五十歳前後とは思えないほどスタイルも抜群で、最後に出会った時と印象変わらないな。
「あら、おひとり? カウンターでもよろしいですか?」
「あ、はい」
あっちは私に気づいていないようで、普通のお客様に接するように席に案内して水とメニューを持ってきてくれた。
ここに来たのは、彼の家族をもう一度見たかったからだ。
あさぎくんの表情が一番柔らかくなるのが家族の話のしているときだから、そこから何か見えてくるものがあるんじゃないかと思えて。
「茜、運んで」
「はーい」
奥からはお父さんらしき人の声が聞こえる。
店の中は割と閑散としているので、お母さんは直ぐに運び終えると厨房への戸口に立って店全体を眺めている。
バチっと目があって、「お決まりになりました?」とほほ笑まれて、一瞬たじろいだ。