王子様と野獣
「なぁ茜、ラップの在庫ってどこだ?」
そこにお父さんが出てきて、カウンター席に座る私を見つめると「あれ……」と動きを止める。
「仲道さんちの……えっと百花ちゃん?」
「え、ご、ご存知なんですか?」
まさか気づかれるなんて思っていなくて、私は焦ってしまう。
「知ってるもなにも、仲道さん、会うたびに子供の写真見せまくるもん。ああでも、最後に見せられたの高校卒業の時の写真だったけど、あんまり変わってないね?」
本当のことだけど切っ先鋭い一言だった。どうせ私は変わりませんよ。今も幼児体型だしね。
「それに、今日メールもらって。【そのうちうちの娘が行くかも】って」
「うそ! お父さんたら」
店の名前を聞いたし、その理由として、今の職場の主任があさぎくんだから行ってみたいっていう風に話したけど、そこまでする?
過保護なんだから、もう。
「まあとりあえず何か頼みなよ。今浅黄と同じ会社なんだって? あいつの話、聞かせてほしいな」
「お父さんたらそこまで言ったんですか?」
「仲道さんは子煩悩だからね。君が久しぶりに電話してきたのが嬉しかったみたいだよ」
もう二度と電話なんてしない。
そう誓わせるのに十分な父の行動に、私は拳を震わせる。
「そうなの? やだ、浅黄ったら何も言わないんだもん。ぜひゆっくりしていって。百花ちゃん、好き嫌い無い? 好きなものを頼んでね」