王子様と野獣


結局私は鍋焼きうどんを頼み、それを食べている間にお客はだいぶはけてしまった。

十五時からは夜の仕込みに入るから一度閉めるらしく、彼のお母さんがお茶を入れ、私を四人掛けのテーブルへと誘った。


「浅黄、仕事を始めてから一人暮らしをしてね。うちにはあんまり寄り付かないのよ。まさかあの時のちっちゃな百花ちゃんがおんなじ会社に入るなんてビックリね」

「あ、でも私は最近入社した派遣なんです」

「派遣でもなんでも、立派なものよ。大企業で働くなんてねぇ……」


しみじみと言うお母さん。やがて、お父さんも片づけを終えて向かいに座る。
「ずれてるわよ」と自然にお母さんがお父さんの作務衣の襟を直す。見ていて羨ましいくらい仲がいいなぁ。

それに……あさぎくんのお母さんって、女の私が見ていてもなぜだかドキドキする。
胸の大きいし、顔もどちらかと言えば派手で、人目を引く。些細な仕草が女性っぽくて、何だろうフェロモンが出っぱなしって言えばいいのか。

目が合えばにっこりと笑って見せるところも、なんていうか大物感がある。

こんな人がお母さんなら、他の女性に魅力なんて感じないのかな。
あさぎくんが女性に性欲が持てないってそういうことなの?

だとしたら、ここでそんな話しちゃいけない。
私は慌てて立ち上がった。


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