王子様と野獣
「……そう。やっぱり……ダメなのね」
お母さんは、寂しそうに笑うと目をそらした。
「昔は何人か女の子と付き合っていたみたいなんだけど、すぐ別れちゃったみたい。私が昔、奔放なところを見せてばかりいたから、女の子に夢が見れなくなっちゃったんじゃないかしら」
「そんな……」
「違うよ」
否定しようとした私と同時に、お父さんが口をはさんだ。
「浅黄はもう子供じゃない。親のことは関係なしに自分の相手くらい見つけるよ。誰とも付き合わないなら、単純に惚れるだけの女がいないってことだろ」
「そうかしら。あなたはそうやって放任にするけど」
「放任なわけじゃない。……浅黄が乗り越えなきゃならないものがあるなら、それはあいつ自身がするべきだって言ってるんだ」
含みのある言い方をしたお父さんは、「茜、茶のお替り」と言ってお母さんを追い出すと、私に向かってこっそりと耳打ちした。
「百花ちゃん。浅黄のこと、嫌わないでやってくれな」
「え?」
「あいつは、自分の金髪が嫌いで、自分の半分が嫌いなんだ。だから精神的にアンバランスで、それでも人を傷つけたくないから、優しさで全身に膜をはる。俺はいつか、あいつが嫌いな半分を、受け入れてくれる存在ができればいいと思ってる」
「……それって」
「君にやれとは言ってないよ。でも、君が頑張ってくれるなら嬉しいと思ってる。……それだけだよ」
ポン、と頭を触って、お父さんは立ち上がった。
そのタイミングで今度は裏口から騒がしい声が聞こえてくる。
「手伝いにきたよー! おとーさーん」