王子様と野獣
けたたましく入ってきたのは、お父さんによく似た、細目の女の子だ。
「萌黄だ。紹介しようか。浅黄の妹」
「え?」
茶色のショートボブにはつらつとした笑み。背は低いけど、プロポーションがいいところはお母さん似なのかな。
彼女が間に入ると、完全に家族という印象になる。
「萌黄、こちら仲道百花ちゃん。浅黄の同僚だって」
「はじめまして。萌黄です。お兄ちゃんの同僚なのにお兄ちゃん一緒じゃないの?」
「あ、えっと」
「偶然来たんだよ。俺の先輩の娘さんだから、ちょっと話していたんだ」
「へー、すごい偶然だねぇ」
ポンポンと楽し気に会話する親子はとても自然で、女子高生というお年頃なのにお父さんに対しても朗らか。
そこにお母さんが加わっても、何の違和感もなく親子だなぁという感じ。
でも、真ん中にいるのがあさぎくんだったら……?
ものすごく和顔のお父さんと並べば、やはり違和感はあるかもしれない。
“あいつは自分の半分が嫌いなんだよ”
あさぎくんは、自分の家族が大切そうだった。
そして、あさぎくん自身は、お母さんと金髪のお父さんから生まれた子。
じゃあ嫌いなのは……金髪のお父さん……?
あさぎくんの本当のお父さんとは、死別ですか離婚ですか?
そんなの、この幸せそうな家族を前にしては聞けなかった。
「……とても、おいしかったです。ごちそうさまでした」
「ああ、今度は浅黄とおいで」
ご家族に頭を下げ、私は店を後にした。
あさぎくんがいつもきれいに隠している、闇のヒントを見つけたような気がした。