王子様と野獣
「おはよう。金曜大丈夫だった? 馬場、送り狼にならなかった?」
ええ、全くなりませんでしたよ。挙句、暴走した私は振られました。
ああもう! こんな自虐的なことは言いたくない。
「はい。アパートの前まで送ってもらいました」
なけなしの女のプライドで笑顔で言ったものの、すぐに気が抜けてハーっとため息をついてしまう。
そうしたら、瀬川さんがいきなりグイっと両肩を掴んだ。
「なんかされた?」
「え? ……いえ、全然」
「だってため息」
「違うんです。これは別件で。……えと」
瀬川さんは肩から手を離し、腰に手を当てもう一方の手で眼鏡を直す。
「悩みがあるなら相談に乗るよ? よかったら昼にでも。一緒に食べない?」
こ、これは……。
どうすればいいんだろう。親切心で言ってくれてるなら断るの失礼かな?
まっすぐ見つめられて、たじろいでいる私に、瀬川さんはダメ押しのように言う。
「昼間ならいいわけでしょ。正攻法で誘う分には」
それってそれって、告白みたいじゃないですか?
いやでも、そんなわけない。野獣と呼ばれる私が、こんなイケメンに恋をされるなどないない。
大体瀬川さんに好かれるきっかけとかわからないし。私が図々しく勘違いしているだけだよ。
「あーでも、ごめんなさい。お昼は美麗さんと食べるんで」
「え?」
突然巻き込まれた感じの美麗さんは、ぎょっとしたように私をみた。
話は聞こえているんだな。察してくださいよ、助けて。