王子様と野獣

「で、どうして私にそれを言うの?」

「美麗さんはどうするかなと思って。だって今、私と美麗さん同じスタートラインにいますよね。抜け駆けはよくないかなって思って」

「この状態をスタートラインっていう? あなたって本当におめでたいわね」

「でも……」


はーとため息をついて、でも次に私を見つめた美麗さんの顔は優しかった。


「変な人ね。呆れるわ。……残念だけど、私は彼の返答から少しの希望も感じられなかったわ。だからNOよ。私は下りる」

「……いいんですか?」


美麗さんはランチのハンバーグをフォークで転がした。お上品な彼女にしては珍しいしぐさだ。


「私は彼の出世の力になれる。政略結婚がうまくいけばね。……でも、うまくいかなければその反対よ。彼が断ったことで、父の彼に対する心証は悪くなった。すでに切り捨てを決めているのか、新しい私の結婚相手として数人をピックアップしているようだわ。この会社の跡継ぎは本部長だけど、彼は子供には継がせないって公言しているから、父は私の子供が後継者になれると思っているのよ。だから、人柄がよく、将来有望な社員と私を早々に結婚させて盤石の態勢を整えるつもりなの。父にとっては、主任がだめならすぐ次に行こうってところでしょう」

「え、でも」

「主任なら実力でのし上がれる、と言いたいところだけど。会社って人とのつながりが物を言ったりするところなの。断られた時点で、私は彼にとってもう毒にしかならないのよ」


美麗さんが抱えていたものを見せつけられた気分だ。
会社を背負う家系って言うのは、恋愛も自由にできないの?

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