水竜幻想
やがて二人は奇怪な場所に辿り着いた。

そびえる岩肌のところどころに吹き付けられた雪塊がへばり付き、岩壁の裾には窪んだように雪が積もる。その脇にあるのは、建っているのが不思議なほど寂れた堂。

「そういえば、里の者が、山中に涸れてしまった滝があると申しておりましたっけ」

昔むかし、麓の里を潤していた水脈が、続く日照りで痩せ細り、祀る竜神に供物を捧げたところ豊かな水量を取り戻した。
だがそれも永遠には続かず、再び涸れ果てた、と。

「では、あちらには竜神様が祀られていらっしゃるのかのう」

恵照たちは堂へと疲れ切った脚を進める。風雨に晒され傷みは激しいが、屋根と壁があるだけ幾らかはましだろう。竜神に一晩の宿をお願いすることにしたのである。

ギギィっと軋む音を立てながら扉を開けると、雪明かりに照らされて現れた堂内は、思いの外小綺麗だった。雪が吹き込んでもいなければ、山の獣に荒らされた様子もない。
ほっとしながら一歩足を踏み入れたとたん、ミシミシと床板が沈む。

踏み抜かないよう慎重に先陣を勤める隆春が、薄闇に白く浮かび上がった《《それ》》を見つけて凍り付いた。

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