水竜幻想
常葉を覗き込むように大きな影が覆い被さる。水の気配がより濃くなった。
渇いた唇が、無意識に水気を求めてゆるりと開く。
そこへ、ひと粒の小さくまあるいものが乗せられる。ふるふると唇の上で震える危うさに、常葉は思わず口の中に収めてしまった。
正体不明のそれが舌の上で弾ける。とろりと蜜が口腔に広がり、滑らかに喉を降りていく。
桃に似た芳醇な香りが鼻を抜けた。
「……おい……しい」
砂地に染みこむように、甘ったるい味と香りが身の内に行き渡る。
身体が潤いを取り戻すと同時に、雫が押し出されるように眦から溢れた。
「涙するくらいならば、入水などするな」
「そんなこと、していま……っ」
起きあがろうとした常葉の足が、再び痛みを訴える。
わずかに浮いた頭を床に戻し、ふうと息をついた。
「まあ、どちらでもよい。夜が明けたら、人の世に戻れ」
ぶっきらぼうな声を残し、衣擦れが遠ざかっていく。ぽっかりと広がる暗い闇に吸い込まれるように男の気配は消え、再び辺りを包む静けさは、すべての刻が止まったかと錯覚させる。
深い水底にいるような静寂に、常葉の意識も沈んでいった。
渇いた唇が、無意識に水気を求めてゆるりと開く。
そこへ、ひと粒の小さくまあるいものが乗せられる。ふるふると唇の上で震える危うさに、常葉は思わず口の中に収めてしまった。
正体不明のそれが舌の上で弾ける。とろりと蜜が口腔に広がり、滑らかに喉を降りていく。
桃に似た芳醇な香りが鼻を抜けた。
「……おい……しい」
砂地に染みこむように、甘ったるい味と香りが身の内に行き渡る。
身体が潤いを取り戻すと同時に、雫が押し出されるように眦から溢れた。
「涙するくらいならば、入水などするな」
「そんなこと、していま……っ」
起きあがろうとした常葉の足が、再び痛みを訴える。
わずかに浮いた頭を床に戻し、ふうと息をついた。
「まあ、どちらでもよい。夜が明けたら、人の世に戻れ」
ぶっきらぼうな声を残し、衣擦れが遠ざかっていく。ぽっかりと広がる暗い闇に吸い込まれるように男の気配は消え、再び辺りを包む静けさは、すべての刻が止まったかと錯覚させる。
深い水底にいるような静寂に、常葉の意識も沈んでいった。