人魚のいた朝に
この町に来て、初空と出逢って、何度もこの砂浜を二人で歩いた。
春も夏も秋も冬も、雨の日も雪の日も、二人で歩いた。
ランドセルから中学の制服に変わっても、僕らはいつも一緒に居た。
二人で歩くときは、たいてい初空が前だった。
他の友達が一緒の時は、少し間を開けて歩いた。
その距離が年々広くなったのは、周りに揶揄われることが恥ずかしかったからだ。
「ねえ、初空、本当に大丈夫?」
「大丈夫!」
長いスカートの下に隠された脚を、両手を使って広げた初空が、僕に向かって手を伸ばした。
だから仕方なく、彼女の脚の間で背中を丸めた。
「青一、そのまま脚掴んで」
「わかった。ちょっと引っ張るよ」
「うん」
微かに緊張したように頷いた初空が両手を僕の肩に乗せると、彼女の体重を一気に感じた。
同時に、その脚が動かないことを、現実として突き付けられた気分だった。
固まってしまったみたいに重みのある両足に、泣きたくなる気持ちをグッと堪えた。
「重たい?」
「ううん。軽い」
「ちょっと痩せたんだ」
初空を背中に乗せて砂の上を進むのは、思っていた以上に大変だった。
そもそも身長もあまり変わらないのだから、体重だって大きく違わない。つまり、僕はあまり男らしいと言える体格ではなかった。
同級生の中でも、野球部や柔道部の男子は、大人に負けないような体格をしているけれど、残念ながら、僕は書道部だ。
だからたいして広くもない浜辺なのに、海に辿り着く前に限界に達してしまう。
「初空、もう無理っ」
「えええ!?」
「ごめん」
「わっ」
力尽きるように膝をついた僕の上で、初空の身体が大きく揺れると、二人一緒に砂浜に倒れ込んだ。
「ごめん!大丈夫!?」
「あははっあははははっ!!」
「初空?」
慌てて身体を起こした僕の前で、砂の上に転がった初空がお腹を抱えて笑い始める。