人魚のいた朝に
2.




幻のような恋でした。

あなたを一目見たときに、
全てが奪われるのを感じました。
光の粒が弾けるような出逢いに、
私は心を躍らせました。

“どうか私の願いをお聞きください”

“あの人にもう一度会えるのならば、
この声だって差し上げましょう”

右足に純白の愛を絡ませて、
冷えきった世界の上を走った夜。
ただひたすらに、夢を見た。

願いは数多も叶わぬもので、
夜明けと一緒に夢は覚めた。
去りゆくあなたにかける声を、
私はあの海に置いてきた。

左足は憎しみに飲まれて、
己の欲深さを思い知る。
だからせめて、
この深い欲望の海に溺れる前に、
私は一粒の泡になりましょう。

初めて知った煌めくようなこの想いが、
消えてしまう前に。

それは、幻のような恋でした。



『人魚姫』


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