人魚のいた朝に

「海に寄って帰ろう」

「・・・いいの?」

身体を起こした彼女が座る車椅子を、ゆっくりと引く僕を、初空が嬉しそうに見上げた。

「うん。最近、勉強ばかりで行けてなかったし」

せっかくの夏休みも、冷房の効く学校の図書室に通い詰めるばかりだった。

「ちゃんと、おんぶ出来る?」

「え?」

「だってこんな場所に籠ってばっかだから、またひ弱になってそう」

楽しそうに話す初空の足元では、相変わらず綺麗なロングスカートが揺れている。色とりどりの生地を使い、彼女の母親が作っているそれは、どれも初空によく似合う。
もちろんいつもはみんなと同じように初空も制服を着ている。
だけど夏休みになると、こうして私服で学校に来る生徒もチラホラいる。

「初空を背負うくらいの体力はあるよ」

「転ばへん?」

こんな風に言うのは、あまりにも単純でありきたりかもしれないけれど、初空と一緒に居ると、自分がどこまでも強くなれる気がする。
彼女の為なら、どれだけ困難な目標にも、立ち向かえる気がする。

「転んでも、何度も初空を背負うだけだよ」

何度も何度も、初空の願いが叶うまで。

僕は・・・





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