人魚のいた朝に
「太一って、あいつはいつも適当なことしか言わないだろ?」
「でも、合コンは本当なんでしょう?」
「それは、そうだけど」
京都での生活が始まって二週間が過ぎた頃、小中高と一緒に過ごして来た友人の一人である、金井太一(カナイ タイチ)から連絡が来た。
お互いに京都の大学に進学したことは知っていたから、どこかのタイミングで連絡は取ろうと思っていたけれど、先に連絡をして来たのは太一だった。
それも、大学で出来た友達と合コンをすることになってけど、急に一人来られなくなったから、今すぐに来て欲しいと言う、なんとも迷惑な理由だった。
もちろん、人付き合いの苦手な僕は素早く断ったけれど、太一の方も諦めてくれなくて、最終的には渋々参加する羽目になった。
人生初めての合コンだ。
正直言って、行くまでも着いてからも、帰り路ですら気乗りしない時間だった。
人生で一番無駄な時間を過ごしたと太一に言ったら、あいつは腹を抱えて笑っていた。
だからもう二度と太一からの連絡は取らないと誓ったけれど、なんだかんだで月に一度は顔を合わせている。
今回の帰省も、先に帰っていた太一から、初空が怒っていると聞いて慌てて帰って来た。
「医大生は忙しいって言うわりに、合コンに行く時間はあるのね」
「あの時は本当に、太一に頼まれて仕方なく言っただけで、もう二度と行かないよ」
「ふーん」
「初空、信じてよ?」
「別に、青一がどこで女の子と仲良くしてようと、うちには関係あれへんし」
「関係あるよ!」
「・・・へ?」
こっちを見てもくれない初空に、つい声が大きくなってしまった僕に、彼女が驚いたように振り向いた。
「あ、いや・・・ごめん」
「ううん」
「初空には、誤解されたくなくて」
「・・・そっか」
「うん」
こういうとき、どんな顔をすればいいのかわからなくて視線を逸らすと、初空も同じように視線を泳がせた。
「あのね、青一」
「何?」
「手、繋いでええ?」