人魚のいた朝に
3.


「大学に入って最初の年は四回。二年生になって八回に増えたと思ったら、三年、四年はまた四回に減って、ついに今年は夏にも帰って来なかった」

「本当にごめん。今年は思っていた以上に忙しくて。夏休み中も研究室に籠り切りだったんだ」

「その言い訳は、もう十回は聞いた」

「言い訳じゃなくて、」

「事実でしょう?それも聞いたし、わかっとる。でも文句ぐらいは言わせて」

「あーうん。本当に、ごめん」

久しぶりに会った初空の髪は、胸を隠すほどに伸びていて、全体にふわりとしたパーマがあてられていた。
なんて言うか、すごく大人っぽい。
少し会えていないだけのつもりだったのに、随分と綺麗になった彼女を前にして、一年近く帰っていなかったことを後悔する。

大学生活も五年目に入った今年は、とにかく研究室に入り浸っていて、自宅であるアパートにも寝に帰るくらいだった。
遊ぶ時間があるのなら研究をしたい。
研究室に入れない日は、役に立ちそうな文献を探して大学内の図書室に居たい。

何かに追われているとか、やらないといけないとかではなくて、とにかく今自分が参加させてもらっている研究が面白くて仕方ないのだ。
もちろん役に立てるほどの力はまだないけれど、その空間に居られるだけで気持ちがワクワクして、時間も予定も空腹さえも忘れてしまう。

だけどそうやって心地の良い時間に夢中になっていたら、季節はすっかり冬になり、除夜の鐘が鳴り終わっていた。
つまり、年が明けてから慌てて帰ってきたのだ。
初空の元へ。

「青一、この前電話した時にクリスマスまでに帰るって言っとったのに」

「そのつもりだった。でも、気づいたら」

「・・・研究バカ」

「今回は本当に反省してる」

相変わらず綺麗なロングスカートを揺らしながら、初空が車椅子をゆっくりと動かす。
一月を迎えたばかりの海岸は、コートとマフラーをしていても寒い。

「初空」

「何?」

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