人魚のいた朝に
僕を見上げた彼女の前髪が、流れるように遊ぶ。
「今さらかもしれないけれど、クリスマスプレゼント」
「え、」
「気に入るかわからないけれど、受け取って欲しい」
「・・・うちに?」
「うん。初空以外に、こんなの贈る相手いないから」
「・・・」
小さな紙袋を差し出すと、初空が戸惑いながらも手を伸ばす。
「初空に似合うと思う」
「でも、ここって高いブランドだよね?」
「うーん。まあ、バイトをいつもより頑張ったから」
「そうなの?忙しいのに??」
「うん。家庭教師のバイト以外に、大学の教授の手伝いみたいなのを何回かやったんだ。だから、そういうのも含めて忙しかった」
夏休みに帰れなかったことは、僕だって気にしていた。
京都に来てからも、夏だけは必ず帰って来て、初空を背負いながらこの砂浜を歩くことを欠かさなかった。欠かせない大切な時間だった。
そのことを太一に話したら、たまには初空を喜ばせるようなプレゼントでもするように言われた。太一曰く、僕は女心に疎いらしい。
いつも久しぶりに会う初空にプレゼントなんて渡したこともなく、決まって京都名物の生八つ橋をお土産に渡していた。
僕の中では、初空がそれを喜んで受け取ってくれているから、大正解のつもりだったけれど、太一に話したら呆れられた。お土産とプレゼントでは、だいぶ意味合いが違うらしい。
だから今回は、クリスマスプレゼントとして女子に人気だと言うジュエリーショップに太一とその彼女と三人で選びに行った。
普段、大学と研究室と自宅をグルグル回っているだけの僕にとっては、それはとてもハードな一日だった。
でもそれで初空が喜んでくれるのであればいいと思った。
思ったのに、「研究バカ」の僕はクリスマスをすっかり忘れてしまったのだから、どうしようもない。
「今、開けてもええ?」
「え、今!?」
「うん。だって、すぐに見たい」
そう言って袋の中から小さな長方形の箱を取り出す初空に、一気に心拍数が上がる。