人魚のいた朝に
高校を卒業してもうすぐ五年が経つ。
僕も初空も二十三歳を迎えて、すっかり大人になった。
だけどこの二十三年の人生で、こういうこととは無縁の場所に居た僕は、初めて味わうくすぐったい緊張の中に立たされた気分だった。
いや、前にも一度だけある。
初空と初めて会ったあの日。僕は突然目の前に現れた彼女に、恥ずかしいくらいに緊張をしていた。
本当に、こんな贈り物一つで彼女を喜ばせられるのだろうか。
反対にガッカリされたりしないだろうか。
そんなことを考え始めたら、まともに彼女を見られなくなってきた僕の耳に、弾けるような声が届いた。
「可愛い!!」
「・・・え、」
「青一、これ凄く可愛い!それに綺麗!!」
箱の中身を掴んだ初空が、太陽に照らすように掲げる。
華奢な指先で摘まむように掴まれたチェーンの先で、花のように象られたペンダントが揺れる。彼女の為に選んだのは、誕生石を使ったネックレス。
「本当に、うちが貰ってええの?」
「あ、当たり前だよ」
「信じられへん」
キラキラと瞳を輝かせて、ネックレスを見る初空に、なんとも言えない感情が込み上げてくる。
こんなことなら、毎年プレゼントを贈ればよかった。
もっと時間を作って、帰って来れば良かった
彼女のこんな顔を見られるのなら、なんだってしたのに。
「初空、本当にごめん」
「へ?」
「夏に帰らなかったこと。それ以外も、いつも待ってくれているのに、何も出来なくてごめん」
「・・・」
不思議そうに僕を見上げた彼女が、不意に頬を緩ませた。
「青一は、誰よりもうちの為を想ってくれとるし、考えてもくれとるでしょう?だから、そんな顔はせんで」
「でも、」
「それに、うちにも他に友達くらいはおるし」
そう言った彼女が、「つけて」と、僕にネックレスを向けた。