人魚のいた朝に
「前から気になっとったけど、何でお前ら付き合わんの?」
「え?」
正月も明けて、いつも通りの大学と研究室と自宅のアパートを行き来するだけの生活に戻っていた二月の頭。カウンターテーブルに置かれた二つのお猪口に日本酒を注ぐ太一が、そう言って俺を見た。
既に大学を卒業して社会人になっている太一は、地元には帰らず京都にある企業に就職した。システムエンジニアなんて言う、昔の太一からは想像も出来ないくらいに立派な肩書も付いている。
「だから、初空とだよ!お前、あいつのこと好きなんだろ!?だったら、何でいつまでもお友達しとるん!?」
「何でって言われても、」
「お前があの町を出てから、もう五年だぞ?」
「まあ、そうだけど」
「ええ加減、気持ち伝えへんと、初空が可哀想だ」
「初空が?」
今日はやけに熱心に喋る太一に首を傾げると、大きく溜息を吐かれた。
「お前は、ほんまに鈍いつーか、どうしようもない男だな」
「鈍い?」
「あんな、難しい研究に没頭するのもええし、それがお前の仕事なんもわかるけど、あいつの為に頑張っとるなら、そのこと含めてちゃんと伝えろよ。それで、ずっと待ち続けとるあいつを、少しは安心させたれ」
「・・・安心」
「そう。安心出来へんのに、待っとるのもしんどいぞ?」
「でもさ、」
いっぱいに注がれた日本酒を、一気に喉へと流し込み、僕はゆっくりと息を吐いた。
太一の言っていることが分からないわけではない。
でも、それが正解だとも言い切れない。
「今はまだ、待たせることしか出来ないから、言えないこともある」
「ん?」
僕の言葉に、太一が顔を顰めながら首を捻る。
「だからそのさ、僕だって付き合いたいし、そういうのは初空以外考えられないと思っているよ。でも、今もしもそういう関係になれたとしても、僕はこうして離れた場所に居て、会いに行ってあげることも出来なくて、初空がデートしたいとか思っても、叶えてあげられるのは半年後かもしれない。ましてや、今すぐ結婚も出来ないし」
「いや、結婚は早いだろ」