人魚のいた朝に
「ごめん、もう一回」
「だから、うちがあんたに会いに京都に行く言うとるの!」
「・・・え!?」
思わず立ち止まってしまった僕に、後ろを歩いていたサラリーマンがぶつかりそうになり、慌てて避けた。
「京都って、初空が?」
「そう」
「でも、それは」
「言っとくけど、一人で行くわけじゃないから」
「・・・え、それはどう言う」
「家族旅行」
「家族、旅行?」
「そう。前から、昔みたいに遠出したいねって話しとったの。それで、来月にでも京都に行こうって」
「本当に?」
「本当。だから予定が合ったら、一日は青一とデートでもしようかなって」
「デート」
「そう。青一が暮らしとる街を、一回くらいは見てみたいから」
何故だかはわからない。だけど彼女のその言葉に、自分はいつまでこの場所に居るのだろうかと、ふと疑問に思った。
いつかあの町に帰るのなら、それはいつなのだろう。
そんな大事なことを、この数年考えてもいなかったことに、僕はやっと気づいたのだ。