人魚のいた朝に

「あの、ちょっと考えさせて欲しい」

「・・・え、」

長い沈黙の後で、初空の唇から零れた言葉に、僕はわかりやすく動揺した。

「違うの!その、すごく嬉しいの」

「だったら、」

「でも!」

「・・・」

「・・・でも、吃驚して。そんなこと今言われると思っとらんかったから、なんか頭混乱しとる」

「え、あ・・・ああ、そっか」

「ごめん」

戸惑うように僕を見た初空の顔が、耳まで赤く染まっていた。
だから、告白のタイミングを間違えたのだと悟った。
こんなことなら、太一に聞いておくべきだった。
今日やるべきことを。その流れを、相談しておくべきだった。

「あの、僕の方こそ、ごめん」

「へ?」

「急に、変なこと言った」

出来れば数分前に戻りたい。
そう思いながら顔を背けた僕の手を、初空がきゅっと握った。

「うちも、青一が好き」

「・・・え、」

「でも、好きだから、どうしたらいいか困っとる」

やけに落ち着いたその声に、顔を向けることが出来なかった。
身体の中の、ありとあらゆる細胞が、張り裂けそうな気分だった。

「ねえ、青一」

「ん?」

「一つだけ、聞いてもいい?」

「・・・何?」

ゆっくりと息を吐いてから視線を向けると、彼女の真っ直ぐな瞳が僕を映した。

「うちが返事をしたら、青一はあの町に、帰って来る?」

「・・・」

「それともうちは、これから先もずっと、あんたの帰りを待っとるの?」

「それは、」

「あのね、青一」

「初空」

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