人魚のいた朝に

「え?」

「青一がもしも、うちと一生を共にするのなら、これからもっともっと重たいものを背負うことになる」

「・・・」

「それがね、うちはどうしようもなく苦しいの」

首筋に落ちた熱は、彼女の零した涙だった。

「そんな風に思わないから」

「思わなくても、現実にはそうなっとる」

「現実って、」

「なんで嘘吐くの?」

「初空?」

「青一がやりたいことは、この町にはないでしょう?なのになんで、帰ってくるなんて言うの?大学院に行かないなんて言うの?やりたいことあるんでしょう?青一、研究の話になるといつもすごく楽しそうだった。それって、自分の夢を見つけたからでしょう?なのに、なんで嘘吐くの?うちの為?」

「それは、」

「だったら、なんでうちを京都に連れていかんの!?」

「え、」

ああ、そうか。
彼女はもうずっと前から、気づいていたんだ。

「それが出来へんのは、うちが歩けへんからでしょう?」

「初空、待って」

彼女の顔を見たいのに、出来ない状況に気持ちばかりが焦る。何かを言わないといけないのに、次の言葉が見つけられない。突き刺さるように伸びてきた太陽の光に、いっそこのまま消えてしまえたらと思った。

「ごめんなさい」

彼女を連れて、消えてしまえたなら、

「初空」

「うちが、無理なの」

どれだけ楽になれるだろう。

「本当はずっと、うちが無理だったの」

「初空」

「青一の前では、キラキラしていたいの。綺麗でいたいの。情けない姿なんて、見せたくないの。見られたく・・・ないの」

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