諦めるには値しない
~珀斗side~
冴子さんはほんの少し
瞳を潤ませながらトタの
父親に向かって話し始めた。
いや、本当はずっと昴に
伝えたかった事なのかもしれない。
冴子「私はこの子を産んで
すぐに施設にこの子の事を預けたんです。
結婚した相手が毎日のように
暴力を奮う相手で何としてでも
この子の事を守ってあげたかった。
だから、私はこの子の事を
一度捨てたんです。」
冴子さんはあの日俺たちに
話してくれた事を洗いざらい
昴の前でも話した。
それが冴子さんなりのケジメ
だったのかもしれない。
冴子「夫の暴力から昴の事を
守るためだとか昴に幸せな人生を
歩んで欲しいから預けただとか
いくらでも言い訳は出来ます。
でも、そのせいで昴が幼少期を
どんな想いで過ごしてきたのか
私には分からないんです。
昴のためにと思って勝手に私が
やった事のせいでこの子がどんな
辛い目に遭ってきたのか私には
分からないんです。でも、あなたは
ちゃんと分かってますよね?
すぐ側で成長を見守ってきたあなたなら
自分の息子さんの幸せが何なのか
分かるんじゃないですか?」