花瓶─狂気の恋─

桃のあの狂気じみた笑顔、包丁で刺された激痛、そして悠雅の告白。
少し頭から離れた絶望が一気に押し寄せた。その感情を抑えられないのか、真帆は頭を抱えた。


「あ...ああ!ああああああああ!!」


「ま、真帆!?落ち着いて!大丈夫!大丈夫だから!!」


晶子が抱きついて抑えるが、真帆の感情は収まらなかった。涙が自然と流れて、あの時の事が頭の中で映像化して何度も再生された。削除しようにも削除出来ず、永遠にリプレイされていた。

数分後、真帆は落ち着きを取り戻した。涙を流し、声を出し、晶子の声によって映像は一時停止されたのだった。
晶子は落ち着いたのを確認すると、そっと手を離した。


「真帆....無理しなくていいから。思い出せなかったらそれでいいし、言いたくないなら...」


「ううん、違うよ晶子....ごめんね急に...あの時怖かったからちょっと....
刺した相手....顔が見えなかったから分からないや....」


「うん....そっか...あ、私飲み物買ってくるよ。ちょっとまってて!」


晶子はそう言うと病室を出た。真帆は白い天井を見つめながら、自分が流れるように吐いた嘘が疑問だった。


あれ?なんで私嘘ついたの?刺したのは矢内 桃、怖くとも何とも思ってなかったのに....隠す必要なんてないのに...
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