花瓶─狂気の恋─
「意味わかんない!何でここまできて何にもないの!?」
『....静華ぁ!嫌だよぉ!』
「...え?」
こんな山の中で自分の他に人がいること、何かの遊びではなく緊張感のある声に私は耳を疑った。
キョロキョロと辺りを見回すも周りには何も見当たらない。
私は目を閉じて耳を集中させて周りの音を必死に探った。草木が揺れる音、動物や虫の鳴き声を無視し、本来山の中で聞けるはずもない音を聞き分けようとした。
しばらくすると上空から何が木に激突する音が聞こえた。私は目を開けてその音の方向を見ると、土の壁の上から聞こえていた。
今すぐにでも行きたい気持ちでいっぱいだったが、どうやっていけばいいのか分からずに私はただ眺めていた。
すると壁の上から何かが空中へ飛び出した。私は目を細めてその物体を見つめる。
飛び出てきた物体はすぐに人だと分かった。
その人は自分の近くへ落ちてくる。それは理解してたけど、私は完全に目を奪われていた。
美しい夕暮れの日差しを浴びながら落ちてくる人。その人から飛び出る血はまるで一粒一粒意識があり、外の世界に出れて喜んでいるようだった。
本来なら数秒という時の中、数分間に感じていた私の目は信じられないものを見た。