花瓶─狂気の恋─
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雫は頬を赤らめながらゆっくりと目を開けた。聞いているだけで寒気がして耳が痛くなる話に晶子は何も言えなかった。
「私はあの感動をもう一度味わいたい。あの時のような衝撃的な出来事に遭遇したい。私の思考を遥かに超えるような出来事にね。
あと少しなのよ....真帆があと少しで熟す!私の作り出す物語に圧倒的衝撃を与えることの出来る存在になりつつある!」
「....冗談じゃない...そんな事のために真帆をおかしくするの!?そんな事の為だけに色んな人の命を犠牲にするの!!?」
「いい子の貴女には理解できる筈もないわ。また会う日が来るか分からないけれど、その時は少しでも理解してくれてることを願うわ。」
雫は折りたたみ式の椅子を持ってその場を去った。重い扉が閉まると一気に部屋が静まる。
晶子だけの空間となり、雫がいた事によって麻痺していた思考がようやく動き出す。
あの人が言ってたこと....本当なのかな?...本当に真帆が泰河君を....まだ付き合って全然経ってないんだよ?これからいっぱい一緒に居たかったし、来週には遊園地行く約束だって...なんで....なんでこんなことに....
「うぅ...ぅぅぅ....」
晶子の心の中には泰河を殺した真帆を恨む気持ちはなかった。ただ悲しい、泰河が消えた悲しさがあまりにも大きすぎたのだった。
誰もいない空間で晶子は孤独に泣いていた。