花瓶─狂気の恋─
肌寒い空気が身体を包んでいく。体温が下がるのと同時に心も冷えていく。先程まで流していた涙すら凍っているように感じる。実際は少しクーラーが効き過ぎている温度なのだが、寂しさでいっぱいだった晶子にとっては極寒の部屋だった。
泰河が死んでいるのは言葉でしか確認していない。実際どうなっているかなど知らない。だが、虚言と思っている心も時間と共に真実へと変わっていく。不安が重なり、本当なんじゃないかという気持ちが浮かび大きく膨れ上がる。
あの時....真帆から手紙を貰った時に二人に相談しなければこうなることは無かった...私のせいだ....私一人でやってれば良かったのに...私のせいで二人が....
「うぅ...ごめんなさい....ごめんなさい...」
誰も聞いていないのは知っていたが、晶子は謝らずにはいられなかった。謝罪の言葉を言う度に心が締め付けられる。晶子は耐えられなくなり舌を噛み切ってしまおうかと思うが、行動には移せない。
それは泰河が死んだとは決まっていなかったからだった。雫の言葉が本当は嘘だったという希望があったが故に死ねなかった。
死ねない....もしかしたら生きてるかもしれない...それに真帆のことだって....私がしっかりしてれば...
そう自分に言い聞かせた晶子は脱力しきった身体に鞭を打ち、拘束を解こうと力を入れてみる。