花瓶─狂気の恋─
だが、堪える。歯を食いしばり、血が出てきそうになるまで堪えた。
そして悠雅の後ろを通り抜け、ある人物の後ろで止まる。
「あの....千紗...せ、先輩?」
真帆が話し掛けたのは千紗だった。大好きな人ではなく大嫌いな人に声をかけた。
真帆は"先輩"と呼ぶだけでも苦痛で一瞬躊躇ったが、そんなことを知る由もない千紗は笑顔で振り向く。
「ん?どうしたの真帆ちゃん?私になんか用?」
「あ、あの....さっき撮ってきた写真がいいのか...千紗先輩に聞いてみたくて...」
千紗は真帆の言葉に反応して、目が輝いた。頼られている、という事だけで千紗は上機嫌になった。
だが、同時に戸惑いもあった。
「え!?私に?いいの?私アドバイスとか下手くそだし、三年生とか悠に聞いた方がいいんじゃない?」
悠雅の事を愛称よく"悠"と呼んでいるのに、怒りがこみ上げてきた。真帆にしか見えない狂気の残像が、千紗の首に両手を添えていた。だが、真帆は必死に堪えた。
「き、昨日"何でも聞いて"と言って...いたので...."千紗先輩に"聞いてみようと思ったので...」
「そ、そう?じ、じゃあしょうがないかぁ〜。見せてみて?どんな感じ?」
千紗は嬉しそうにして、真帆が持っていたスマホを自分の方へと持ってきた。