花瓶─狂気の恋─


千紗の家はどこにでもある普通の一軒家。ちょっと庭が広いくらいの一般的なものだった。
インターホンを押して誰かが出てくるのを待っていると、右手の庭の方にいる柴犬が目に映る。柴犬はベロを出しながら、こちらをジッと興味がありそうに見ていた。

しばらくすると中から千紗が出てきた。


「あっ!真帆ちゃん。よく来たね。迷ったりしなかった?」


「はい。でも、ここって住宅地ですから、ちょっと戸惑いましたね。」


「だよね...ごめんね?やっぱ私が迎えに行けばよかったね。」


「いえいえ。用があるのは私ですから、私が行くのは当然です。」


そう、今回は千紗の写真コレクションを見たいと言って訪問した。だが真帆の目的は千紗の家に行けば何か思い付くかもしれないと思ったからだ。


「そう?とにかく入って入って。あっ、因みにあれが悠の家だよ。」


千紗は向かいの家の方を指さした。真帆は瞬時に振り向き、悠雅の家を見た。千紗の家より少し安いような家、だが真帆にとってはそれは豪邸のように思えてならなかった。


...あれが先輩の家。ふふふ...いつでも訪問できる。あそこへ行けばいつでも先輩と話せる....


少しだけ得られる幸福感、だが真帆にはそれを上回る怒りが込み上げる。
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