運転手はボクだ
「星を見に行くのは行くんだけど…俺みたいに運転手になって、空を車で走るんだって。
それで、パパとママの星を探すんだって、事なんだ、多分」
え?
「いいのかな…、何の関係もない人にこんな話…。
流石に、そこまでは話さなかっただろうけど」
え?
「…千歳は妹夫婦の子供なんだ」
あ…。え。だとしたら、さっきの話からして…預かってるって事…ではないのよね…、そうなる。
「千歳が妹のお腹の中に居る時に、車に乗って移動中、事故に遭ってね。……センターラインを越えて対向車が突っ込んできた。
幸い…て、いうのか、幸いでもないんだけど。んー…。現場から救急指定病院が近くにあってね」
…。
「運転していた父親はほぼ即死で、後ろに乗っていた妹はまだ…息があった」
…。
「千歳は帝王切開で生まれた。妹は千歳の誕生と入れ替わるようにして亡くなった」
…そんな。
「ごめん。いきなり…こんな思いもよらないような話をしてしまって。ごめん」
「あ、の…」
「ん?」
「では、それから、さめじまさんが父親に?」
「そうだね。ど素人の、未婚の父だ。
…最初は悩んだんだ、親子関係の事。俺が本当の父親だと、ずっとそうして暮らしてもいいんじゃないかって。でも、大人になるまでに解ってしまう事もあるから。だから、最近になって、千歳も大分解るようになって来たから、話したんだ。
千歳には何故ママがいないのか。本当のパパとママの話。何故、二人共居ないのか」
「そうですか。私はてっきり…」
「…離婚でも、したと思った?」
「いいえ」
首を振った。
「うん?」
「千歳君のお母さんも仕事をされていて、今日は帰りが遅い日なのかと」
と、駅では思った。…でも。
「あー。んー、でも、いくら千歳が懐いたからと言って、奥さんの留守中に女性を連れて来るなんて事、あり得ない、しないね」
顔見知りでもないですし、その通りですね。
料理の手際もいい。だから、何かしらどこかで漠然と引っかかっていた。
「他人事ですが…。本当の親子だと思っていました」
「生まれて暫く病院には居たけど、生まれたその日からだからね。親は親、だな」
「とと、って…」
可愛い呼び方だけど。呼ばせ方としては変わってる。
「あ、うん。お父さんとかパパとか呼ばせては、本当の父親に申し訳ないと思ったからだ」
あ。そこまで。だから…。
「一度だって、呼ばれたくても呼ばれない訳だから。
千歳の肉声は届かない…。聞くことはできないし、触れる事だって…できない」