運転手はボクだ
歩けばザクザクとなる砂利道を過ぎ、あ、これはそこを歩いたらという体だ。実際は飛び石の上を歩いていたから、そんな音はしない。

長いアプローチだ。左手奥には庭が見えていた。
玄関先に着いた。
大きな引き戸のドアの中は広~い玄関だった。大理石が敷き詰められていた。

上がるように促され、長い廊下を進んだ。

行き着いた先、障子を開け、和室に通された。
ここで待っていてくれと言ったきり、主はいなくなってしまった。

…本当に誰もいないのだろうか、確かに静かではある。こんな、床の間のある、掛け軸の前に座らされるなんて…。
畏れ多い。
刀もあるんじゃないかと思ってしまう…。はぁ。挨拶して直ぐ帰ろうと思ったのに。…まだかな。
…長くは無理よ?足が痺れちゃうから…。

カン。わっ。
はぁ、ビックリした…。えっと、鹿威しってモノだったかしら。きっと、あっちの障子を開けると庭なんだろう。…はぁ。
小さい、本格的な茶室に案内されなくてまだ良かった。
お茶をいただくどころか、そんなところに入れられただけで息を詰まらせて死んでしまうところだったかも。

「失礼するよ?」

「あ、はい」

声をかけられたと思ったら、スーッと障子が開いた。座っていた。…綺麗な所作。

抹茶のお茶碗が二つ。和菓子を盛ったモノが二つ。お盆に乗っていた。
かなり重いだろう。これは…私なら一度に運ぶには無理があるだろうと思った。
それを先に部屋に入れ、立ち上がり入るとまた座り、障子を閉めた。

「お待たせしてしまって。さあ、作法など気にせず…どうぞ…」

お盆を持ち、こちらに来ると、正座した前にお茶碗と和菓子が置かれた。
一連の流れ…本当に卒の無い所作だ。

「この爽やかな紫陽花の練りきり…。寒天の中で泳いでいるかのような金魚のも、涼やかで…本当に綺麗だ」

あら?この感じだと…気に入っていただけたのなら良かったかな。

「この店の物は私もよく食するんだ」

あー、そうでしたか。では、味はよくご存じで…。

「上品な甘さもですが、季節毎のデザインを見るのも楽しくて…いいですよね」

「そう。とてもよくできているのよね」

ん?ちょっと、オネエ系かしら?

「んん。礼など、わざわざ来ずとも良かったのに。丁寧に有り難う」

ちょっと砕けてきたのかな。

「軒先を黙って拝借したものですから」

家の人に会ってしまったのに、声も掛けず終いだったからです。

「今時、珍しい。きちんと挨拶に訪ねて来るとは…立派な心根だ」
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