運転手はボクだ
…あっ、そうだ。

「あの、知識が無く、大変失礼なのですが、お名前はなんとお読みしたら良いのでしょうか?」

表札は立派な物があった。あったけど確実に読めなかった。…無知?
さめじまさんに聞いておけばよかったんだけど。

「おおしろだ」

ああ、やっぱり合ってたんだ。大代と書かれていた。でも、自信がないと呼べない。失礼になってはいけないから。
解らないモノは解らないと素直に言った方が、変な恥をかかなくて済むもの。

「大代様…。有り難うございます」

「君は?」

…あ、さっき、名乗りましたけど?

「はとり、何」

下の名前でしたか。でもフルネームって要りますか?

「羽鳥、恵未です」

「えみちゃんね」

…えみちゃん。
つい最近も、こんな流れの会話をしましたよ?貴方ではないですが。
では、言われちゃうのかしら?そちらの下の名前も。

「私は…」

きた。はい、どうぞ。

「貴史だ」

あ、…はい。たかふみ君とは言わないか。流石にあれは、千歳君が居たからだものね。

「君は何をしている?」

…ん?

「仕事の事、でしょうか?」

「それ以外に何を聞く?」

そうでしょうが…。もっと解りやすい尋ね方というモノが…。

「何の仕事をしてる?とか、職業は何を?とか、そのように聞かれなかったものですから」

面識のない人に対して、私、よくもこんな冷たい物言いができるものだ。嫌われたらどうしようと思っている相手でもないからだ。
とても理屈っぽくて事務的な返しをしてしまった。だって、解り辛いからよ…。

「気に入った」

「はい?」

まだ、何も、職業の質問には答えてないのですが。今ので何を気に入ったと?…はい?

「私のものにならないか?」

は、い?

「お言葉ですが、私の、何になるのでしょう」

また理屈っぽく聞き返してしまった。決して敵対視してる訳ではないが、…一々歯向かいたくなってしまう…。

「これは…無粋な…。いい人、って事ですよ」

いい人?

「いい人とは…」

あ、また言っちゃった…。

「あ、これはこれは。解るようにしろと?…大胆な要求を…」

私、この質問も無粋なの?要求?とか別にしてないし。

「本当に意味が解らなくて聞いてるのか?それとも、私を…試してるのか?…」

え……ぇえ?…ちょっと?ちょっと―――!
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