運転手はボクだ
「さあ、改めて、入ってくれ」

…。もう来ちゃったし、仕方ないか…。

「改めて、失礼いたします」

「あ、今度はここにしよう」


長い廊下を歩かされる事もなく、リビングに通された。

「適当に座ってて?」

「はい」

アンティークのソファーだった。腰を下ろすと思っていた以上にフワッと沈み込んだ。…わ、わ。
一旦座ると身動きが取り辛いかも。


「はい、仕切り直しって事で…お待たせ、どうぞ」

デップリとしたお茶碗に抹茶が入っていた。そして、和菓子だ。

「好きなように飲めばいいから」

「はい、では…いただきます」

流石に回したりはしなかったけど、飲み口は指で拭きとり、ハンカチで手を拭いた。

「…はぁ。詳しくは解りません。単純に、美味しいお茶です」

菓子楊枝を手にして、紫陽花の練りきりを切り、いただいた。…うふ、美味しい…。間違いのない味。

「苦いとか渋いとかは?」

「え?んー、とても、お茶の味が濃いって感じです」

「…そうか」

ん?こんな言い方をして良かったのかな?
だって、抹茶をこんな風に飲んだことは初めてだから。

「せっかく入れていただいたのに、初めてなので、すみませんよく解らなくて。ピッタリのコメントが出来なくて」

「いや、素直な感想でいいと思うよ。私も、いただこう…」

何だか静かな時間だ…。
カンッ。わっ。…この、不意に聞こえる音にも、多少慣れたかな。ちょっと、ビクッとしたけど。ここ、静寂過ぎるのよ…。
…一人で住んでるのかな…。

「鮫島の事はどこまで?」

…この人は、自分の話すことは、相手は理解してるつもりで話し始める人なんだと思った。だから、言葉をとても削ぎ落すんだ。
千歳君の事を、どこまで聞いたのかって言ってるんだと思う。

「千歳君は、妹さん夫婦の子供だという事、聞きました」

「…そこまで話したのか」

え?

「…あ、多分…私が何も関係のない人間だからでしょう。そうなると別に、知られたくないって相手でも無いですし。勿論、私も誰に話す事も無いです」

貴方は別です。知ってるって言ったから、信じて話しました。…それって駄目?でしたか?
……秘密が守れないおしゃべり…。
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