運転手はボクだ
「……千歳君にも、打ち明けたって言ってましたね。大分、物事が解るようになって来たからって」
一つ話せば同じだこと。一連のないようだもの…。
「…そうなのか。男というものは、何でもベラベラ喋らないものだ。だから、今まで大変だった事も、誰かに聞いてもらう事もなかったはずだ」
…。私、ペラペラ喋っちゃいました。聞かれたからって喋っては駄目だって言われてる気がする。
「…そうでしょうね。困ったこととか、んー、ちょっとした成長過程での喜びだとか失敗だとか、きっと、その都度、話したかった時もあったと思うんですよね…」
「…君は…子育ての経験があるのか?」
…。
「…いいえ、ありません。未婚ですし、子育ての経験もありません」
「そうなのか。では、想像力が豊かなんだな」
「…どうでしょう」
また、子持ちかと思われてしまった…。
「子供が好きなんだな。興味があるのか?」
「え?はい。誰の子供に限らず、子供は可愛いですね」
「そういった職業?」
「いいえ?」
「…そうなのか。何て言うか、私にもよく解らないんだが、君の雰囲気、君には安らぎを感じるよ。母性かな。…ぁ、いきなり、私は…よく解らん事を言ってしまったな」
「はい」
「…はいって…」
「はい?」
だって、私だって返事のしようもないですから。何だか遠い目をして、初対面の人に母性だとか安らぎなどと言われても…解りません。
「んん。…さぞや、懐かれたんじゃないのか?」
「え?はい、そうなんですかね、家を出る時に起きてしまって、泣かれてしまいました。…ぁ」
真っ直ぐ帰ったと言った事が嘘になってしまった…。おしゃべりの上に嘘つき…。
「すみませんでした。何だか…色々あって…さめじまさんの家に行きました」
「別に、私に謝る話ではないと思うが?あぁ、確か、帰ったと言ったんだったな」
「はい、嘘を言いました…」
「何故?」
「それは、私が千歳君の事を聞いてしまった事、大代さんも知っていたことなのか、解らなかったので。少し話している内に、うっかり大代さんが知らない事まで話してはいけないと思ったからです。
大事な事を私が漏らしてしまうなんてことがあってはならないと思ったからです」
「なる程。では、その嘘は嘘で良かったじゃないか。千歳君を守る為、の嘘だ。結果として、嘘は必要なかったけどね」
でもなんだか…知ってるという言葉に、信じて話してしまいましたから…。やっぱり駄目な気がする。