運転手はボクだ

さて…、私はちゃんとした返事をしないといけないのよね。
大丈夫です、と言ったこと、そのままに、大丈夫ですと、伝えないといけない。そう返事をする約束だ。
やっぱり無理です、とは言わない約束だ。

ブー、ブー。あ、また、さめじまさんだ。どうしたんだろう。

【おねえさんえみちやんちとせ】

ん?

ブー、ブー。

【ごめん、さっきのは、千歳なんだ。どうしてもメールしたいってきかなくて、ごめん】

あ…。こんな風に、ドンドン慣れて、深入りしてしまうんだ…。今はまだ…こうして普通にしていられる。でも、もしってことがないとは限らない。
…ただのおばちゃんで居られないなら、どっちに転んでも、覚悟がいる。
例えば、もしも…どんどん親しくなって…、知らず知らずのうちにさめじまさんの事を好きになってしまったら…。私は、受け入れられるのだろうか。
好きだと言って、駄目だと断られた時、…理由…そのショックに堪えられるのか…。
やっぱり…。中途半端には関われない、二人の暮らしをかき乱してもいけない…。
…今は、千歳君の希望を叶える事だけを考えよう。それだけ。うん、それだけだもの。
千歳君も一緒に見るかも知れない。ひらがななら、読めるのかも知れない。

【ちとせくん、えみです。こんどのおやすみ、いっしょに、おほしさま、みようね】

もう、一つ。

【さめじまさん、詳しい事、教えてもらえますか?出発時間とか、どこに行けばいいのかとか。後でいいです】

きっとまだ保育所を出る前だと思う。
これで、知り合って間もない人と、長野までいきなり出掛ける事になったんだ…。
千歳君の為…千歳君が居るから知らない人と行けるようなものだ。


ブー、ブー。
あ、もうご飯もお風呂も済んだのかな。じゃあ、千歳君、もう寝ちゃったかな。

【無理を承諾してくれて有り難う。千歳、喜んでます。何とか寝ました。長野には車で行きます。千歳がまだ小さいので公共の物にはまだちょっと無理があります】

そうよね、段取り通りにいかないモノよね。周りに気を遣って、気疲れもする。余計な苛々だって。

【宿泊はペンションを予約してあります】

…あ、そうだ。星って夜だった。…当たり前よね。私ったらうっかりしてた。
だから日曜の事まで聞かれたんだ。お泊まりすることになるんだ…。
もう…今更だ。

【迎えに行きます。午後からの出発になります。特にきっちり何時にとは決めていません。夕方着ければいいかなと思ってます。こっちを出る時に連絡を入れます】

お昼を過ぎたら、いつでも大丈夫なようにして連絡を待っていればいいのね。

【解りました。有り難うございました。さめじまさんのお名前は、どんな漢字でしょうか?】

【鮫島成です。えみさんは?】

…あ、さんになってる。ちょっとドキッとしちゃった。

【羽鳥恵未です。それから、アドレスです】

【有り難う。おやすみ】

あ。…終わり?
もしかして、千歳君が起きちゃったのかな…。

【おやすみなさい】
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