運転手はボクだ
ピンポン。
「はい」
「えみちゃん!」
「わ、千歳君」
…ニコニコ、最上級にご機嫌な天使だ。
「コラ、千歳…。いきなりごめん。車で待たせる訳にいかないから、大丈夫だった?」
「はい、大丈夫です」
ドアを開けたら前みたいに抱き着かれた。大丈夫、今日は腕を回してあげられる。
「ね、えみちゃん、また、いっしょにのろ?」
可愛い表情で見上げられた。
「あ、うん、乗せてね?」
「行こうか。出られる?」
「はい、荷物はこれだけなので」
小さいバッグを玄関先に置いていた。
「じゃあ、持つよ。千歳…頼めるかな?抱っこは重いからしなくていいよ。手を繋いで下りてやってくれる?」
「解りました。千歳君、ちょっとごめんね」
ドアに鍵を掛けようとした。
「ガス、窓の戸締まり、大丈夫?見た?」
「あ、はい、大丈夫、確認しました」
カチャ。
「行こうか、千歳君」
「うん。ととも」
「ん?」
「ととも、て」
「あー、うん」
千歳君を真ん中に、廊下で横一杯になった。
少し列を斜めにしながら階段をゆっくり降りた。最後の一段を千歳君は、ジャンプ、と言って気持ち飛んで降りた。
後部のシートにはチャイルドシートがセットされていた。…あ、乗って来たんだもんね。
千歳君を乗せベルトをした。
「…もう昨日から興奮して、あまり寝てないと思うから、きっと、走り出したら直ぐ寝てしまうと思う」
反対側から乗り込もうとしていた私に鮫島さんがそう呟いた。
そうか…、じゃあ、静かになってしまうんだ。
「順調にいけば高速で3時間ちょっと。それから下の道で…トータル4、5時間後には着く予定だから」
「はい」
「じゃあ、行くよ?」
「とと、あんぜんうんてん」
「大丈夫、安全運転しかしないから」
安全運転…。家庭の事情を知っていたら…とても意味のある会話だと思った。
例え、それがもらい事故だとしても…事故に遭う訳にはいかない。