運転手はボクだ
「えみちゃん」
「何?」
「おねがいごと、した?」
「七夕の?」
「うん。ぼくはね、…ないしょ」
両手を口に当てた。可愛い。
「何、何。内緒なの?じゃあ、私も、内緒」
…特に願い事はしていない。子供の頃の行事のように飾りつけなどしない。笹も短冊も、何もない。だから願い事もない。
「いっぱいみえるかなぁ」
「星?そうね。天気が良かったら、空に一杯見えると思うよ?」
「うん!えみちゃん、て、かして?」
「はい」
ギュッと小さい手で指先を握られた。…はぁ、手を繋ぐということ、こんなにいいモノなんだ。何だか、凄く優しい気持ちにしてくれる。
「うれしい?」
「え?」
「ぼくとてをつなぐと、うれしい?」
フフ。
「嬉しいよ?凄く嬉しい」
「ぼくも」
…なんてストレートな告白をする王子様なんだろう。堪らない。
可愛いし、きっと保育所でも人気があるだろう。
「…何だか、ませてるだろ?聞いてるとこっちが妙な汗が出るよ」
「あ、フフ。…中々、ですよね?」
「変な想像しないでよ?子供は親がしてることを見てるって言うじゃない?」
「鮫島さんがこんな風に、誰かの手を握って、何やら言ってるって、想像ですか?」
「そう、それ。俺はそんな事、したことないから」
フフ。
「千歳君の前では、ですか?」
「そう。いや、違う違う。誰の前でも、誰にもしない」
「フフ。まあ、いいじゃないですか。解りました」
「…本当かな…」
「解りましたから」
手を繋いだ事も無いなんて…そんなの嘘に決まってる。フフ。
「その顔…信じてないだろ」
ルームミラーで確認されたみたい。
「あのね、えみちゃん。とと、せんせいに、て、にぎられてた」
フフ、密告?
「は?それは、繋ぐとか、嬉しいとかじゃないやつだ。千歳の荷物を渡された時に先生が触ったんだろ?」
フフ、ちょっと微妙…。先生は違うと思うけど?
…フフ。