運転手はボクだ

「えみちゃん」

「何?」

「おねがいごと、した?」

「七夕の?」

「うん。ぼくはね、…ないしょ」

両手を口に当てた。可愛い。

「何、何。内緒なの?じゃあ、私も、内緒」

…特に願い事はしていない。子供の頃の行事のように飾りつけなどしない。笹も短冊も、何もない。だから願い事もない。

「いっぱいみえるかなぁ」

「星?そうね。天気が良かったら、空に一杯見えると思うよ?」

「うん!えみちゃん、て、かして?」

「はい」

ギュッと小さい手で指先を握られた。…はぁ、手を繋ぐということ、こんなにいいモノなんだ。何だか、凄く優しい気持ちにしてくれる。

「うれしい?」

「え?」

「ぼくとてをつなぐと、うれしい?」

フフ。

「嬉しいよ?凄く嬉しい」

「ぼくも」

…なんてストレートな告白をする王子様なんだろう。堪らない。
可愛いし、きっと保育所でも人気があるだろう。

「…何だか、ませてるだろ?聞いてるとこっちが妙な汗が出るよ」

「あ、フフ。…中々、ですよね?」

「変な想像しないでよ?子供は親がしてることを見てるって言うじゃない?」

「鮫島さんがこんな風に、誰かの手を握って、何やら言ってるって、想像ですか?」

「そう、それ。俺はそんな事、したことないから」

フフ。

「千歳君の前では、ですか?」

「そう。いや、違う違う。誰の前でも、誰にもしない」

「フフ。まあ、いいじゃないですか。解りました」

「…本当かな…」

「解りましたから」

手を繋いだ事も無いなんて…そんなの嘘に決まってる。フフ。

「その顔…信じてないだろ」

ルームミラーで確認されたみたい。

「あのね、えみちゃん。とと、せんせいに、て、にぎられてた」

フフ、密告?

「は?それは、繋ぐとか、嬉しいとかじゃないやつだ。千歳の荷物を渡された時に先生が触ったんだろ?」

フフ、ちょっと微妙…。先生は違うと思うけど?
…フフ。
< 30 / 103 >

この作品をシェア

pagetop