運転手はボクだ
「…眠ったみたいです」

握っていた手の力が無くなった。ゆっくりお腹の上に戻した。…大丈夫そう。

「そう?やっぱり寝たか」

「可愛いですね。さっきまで喋ってたのに。
何だか…自分の小さい頃の事はあまり記憶にないけど、今の子供の方がしっかりしてるのかな…」

ちょっと頭に手を乗せてみた。子供特有の、サラサラで柔らかい髪の毛だ。何とも言えない優しい香りがする。
……あ、千歳君がしっかりしてるのは、育った環境もあるのかも知れない。…。

「自分の周りに情報も溢れてるからね。単純に、昔なかった便利な物が今はある。何でもあるって言った方がいいのかな。反対に、良かった物も廃れてしまうというのもあるけどね」

ゔ~ん。本当、唸ってしまう話だ。具体的ではないけど、知らないうちに覚えてしまうモノもあるだろう。


やっぱり、静かになってしまった。運転中だし、千歳君は寝てるから、賑やかに話すなんてことも…。

「あっちの天気は良さそうですか?」

取り敢えず、無難な天気の話を選択した。

「どうだろう」

「え?」

ここに来て見れないと可哀そう。でも、天気のことだから。雨じゃなくても、曇ってしまったら見えなくなる…。

「フ。一応、いいらしいよ?でも、山は山だから。天気は変わりやすいかも知れない」

「なる程、そうですよね」

山だもんね。


「次のサービスエリアで休憩しようか。お手洗い、言い辛いでしょ。あ、こんな言い方をしたら尚更利用し辛いか…」

「いいえ、大丈夫です、有り難うございます。どうしましょう」

「ん?」

「千歳君、寝てるから」

「ああ。起こすよ?起こしてトイレに行かす。そうしておかないと、寝てるからって行かせてなかったら、急に起きて、オシッコ!ってなるから。ハハ、そうなったら大変だからね」

…流石。

「失敗の繰り返し…何でも、経験からだけどね」

なる程。そうですよね。

「じゃあ、大人は珈琲でも飲みますか…」

「はい。あ、私が起こしてもいいですか?」

「いいよ…」

では。

「千歳君…千歳君、起きて?」

トン、トンと肩の辺りに触れた。

「いいけど、泣くけどね」

「え?…え゙?」

……もう起こしちゃった。寝起き、悪いのかな?
瞼が開いた。

「…ん…とと?…あさ?…んん」

「お、泣かなかった。…珍しいな…」
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