運転手はボクだ
「…あっ、えみちゃん…えみちゃん」

腕を伸ばして来た。

「よく寝た?」

「うん。わからない」

「フフ、そっか~。ちょっと車から降りようか?オシッコ、行っとこうか」

「うん」

あ。トイレって。

「大丈夫。俺が連れて行くから。流石にね?」

「…はい」

「ひとりでできるもん」

「解ってる。ととも行きたいから行くんだ。適当に…、中で落ち会おうか」

「はい」


サービスエリアに着いた。
よ~し、と言って、シートから千歳君を抱き上げた。そのまま男子トイレに行ってしまった。

さて…私も。こんな時は行きたくなくても行っておこう。

戻って来た千歳君は、興味津々でお店の中を見て回っていたようだ。

「あ、えみちゃん、ひとりでできた?」

「うん。できたよ」

「あ゛千歳。…何だか…ごめん若い子にこんな…」

「え、いえ、気にするようなことではないです。子供の会話ですから」

「不思議だ」

「え?」

「あー、大したことじゃないんだ…あまり敬遠しないから…」

「え?あ。本当に大丈夫ですよ?ドキッとしますけど、嫌とかないですから。可愛いらしいと思います凄く」

「有り難う。ちょっと何かお茶請けでも買って、座ろうか」

「はい」


お茶請けどころか、喫茶ルームでケーキセットを食べた。

「う゛~ん、はぁ。ぁ、ごめん」

鮫島さんは伸びをした。座って長時間運転をするんだもんね。

「まだ、まし、かな」

え?

「昔は座りっ放しだったから。今はそんなことはないからね」

タクシードライバーから運転手になったからかな。

「…破格の給料を貰ってる。あ、昔と比べたらね、固定だし。そういう意味で楽になったよ」

…ムラが無くなったってことだ。雇い主は、ちょっと個性的な気がするけど、男同士だと、どうなんだろう、また違うのかな。

「とと…」

「ん?あーごめんごめん、つまらなかったな。そろそろ…行こうか。千歳、車に乗るぞ」

「うん!」

千歳君は食べ終わって足をプラプラしていた。じっと聞いてる大人の会話なんて、つまらなかっただろう。
ただ、黙って…大人の話の中に居る。こんな感じになることは家でだって無かったって事だ。鮫島さんを独占してた訳だし。
何もなくても、こんな様子を見て…急にお父さんを取られたような気持ちにならないかな。
凄くお父さんが好きって、解るから。
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