運転手はボクだ

「後悔は?ないのですか?」

つき合っていた人が居た…、そして千歳君…。

「何を聞いてる…決めてした事だ」

そんな別れ…後悔がないとは思えない。

「…ちゃんと話してたら解らなかったじゃないですか。あの人達みたいに、揉めたとしても…」

あ。二人…。抱き合ってる。頭を撫でてる。どうやら男の人が思い直したみたいだ。…会うのね、子供さんに。
叩いちゃってごめんって、謝ってる。…有り難う、俺が悪かったって…。
成さんだって、話せば…こんな風になっていたかも知れない。

「話していても、いい結果になったか、解らなかった事だ。もう、過ぎた事だ」

「悪い方の結果とは限らないじゃないですか。思いも?終わってるんですか?」

「恵未……何年経ってると思ってるんだ。昔の事だ…もうこの話はいいだろ…」

「…それ…って、…最後の恋?」

しつこい?でも、とても…年齢的に、深い思いの、恋、だ…。その人とはきっとそう…。そんな、忘れられない恋…だと思う。だって、…それからは千歳君とだけに。

「ふぅ。…恵未に会うまでは最後だと思った。もう、人を好きになるなんて事はない、しない…好きにならないと思った。そう誓ったんだ。…恋は、してる場合じゃなかった。…最後の恋は恵未だよ。
入り口はやっぱり千歳だ。
親しくなる前から千歳の事をすんなりと受け入れてくれた。不思議な感覚だったよ。君を見ていると難しいことじゃない気がしてきた。それは、君の人柄につきるんだけどね。全てが君に助けられている。ずっとだ。感謝してるよ」

感謝…。有り難くて嬉しい言葉ではある。…。私の事は、本当に、…女として好きになってくれたのだろうか。…。恋だと言ってくれたけど、…。

「連絡先は解らないのですか?」

「はぁ、もう…解らないよ」

「その言い方だと、連絡先は解るのですね?」

「恵未…。だとしてもだ。連絡なんて、する必要もない。今更迷惑な話だ。結婚だってしてるかも知れない」

「迷惑じゃないかも知れない。結婚、してないかも知れない」

「恵未…くどいぞ、何言ってる…、何を考えてるんだ…」

「成さんが今、思った通りの事です」

…。

「…解るなら連絡してみてください。変わってたらその時はその時。その人のとこ…、行って来てください。終わってないんですよ、何年経っても。昔の事だって…。それは理屈です。心は昔の事になってない。だって、ちゃんと話してないじゃないですか…。
行って迷惑だって、結婚してるって言われてもいいじゃないですか。ちゃんと話してみてください」

遠慮とか、控えめな表現しかできない、そんなんじゃないと思う。成さんが私に、好きで堪らないって行動をとってくれないのには千歳君だけが理由じゃないと思った。
…そういう事があって、今でも、ちょっとでも…どこかで、思いが終わってないから…引っ掛かってる…。納得の終わりじゃないから。だって、最後の恋だと思ったってことは、その人と先を考えていたって事でしょ?いつかは結婚しようって思ってた人。それをいきなり諦めたんだもの…。

過ぎた事だと成さんは言ってるのに…私が火をつけようとしている。馬鹿な事、してるのかな…。でも…。これは私の欲かも知れない。

「社長には私が話しま…」

「いいよ。行って来いよ」

「…え?」
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