運転手はボクだ

「あっちに行って待ってようか。危ないから、ね?」

「うん。とと、はやくね~」

「解ってる」

リビングに行くと、おねえさん、ちょっと、ちいさくなってと言われ、しゃがんでみると、あのね、ととにはないしょねって、耳打ちをされた。内容はちょっと理解し辛かったけど…なるほどね、七夕だもんね。と思うような話をされた。


「お待たせ…出来たぞ?お~い…」

オムライスとほうれん草のスープだ。テーブルに並べられて麦茶が注がれていた。

「は~い」

リビングから駆け寄った千歳君は、"指定席"の椅子に登るようにして腰掛けた。

「ご覧の通り、大した物ではないけど、遠慮なく食べて?大丈夫だよね?卵とか」

「はい」

さめじまさんは、おっ、と言ってエプロンを外した。


みんなで声を揃えていただきますと言い、食べ始めた。

「…美味しい」

「おいしいでしょお?」

「うん、美味しいね。あ、美味しいです」

「どうも。すまなかったね、ずっと見てもらって」

「え?本当に直ぐ出来たから、私は何も。ウロウロしてただけです」

「もう、雨は降ってないかな…。遠回りさせてしまわない?帰りは遠くさせちゃった?」

「いえ、そんな事はないです。大丈夫です」

今まで、時間的なものも関係あるけど、一度くらいは駅で見かけていたかも知れないのに。会ったこと無いのかな…。んー、記憶に無いって事は会ってないのかな…。どうなんだろう。
知らない人の行動っていうのは、何をしていても特に気にならないものだ。
だから、黒い車を見ていたとしても、千歳君を抱っこしている姿を目にしていたとしても、それは風景の一部に過ぎなかった訳だ。…こんなに目立つ人なのに。
意識してなければ、人はただ通り過ぎるだけなんだ、きっと…。

あ。…フフ。

「あー、千歳…千歳?」

かなり食べ進んで、お腹が一杯になったのかもしれない。コクリコクリと揺れていた。

「静かになったと思ったら…。やれやれ。千歳…寝ちゃったか。ほとんど食べてるな。よし」

口元を拭き、握っていた小さなスプーンを手から離すと、置いてそうっと抱き上げた。全身脱力して、なすがままだ…可愛い。起きないものなのね。寝るのも一生懸命ってことなのかな。

「ごめん、ちょっと、向こうに寝かせて来るから…もう少しでしょ?食べてて」

「はい」

私は、後片付けをしようかな。
< 9 / 103 >

この作品をシェア

pagetop