運転手はボクだ
「千歳の事は心配するな。私が居るから。ゆっくりしてくればいい。丁度週末じゃないか。
月曜の朝に帰ってくればいい」
「社長…」
「千歳も世話をやく必要もないから。居なくても大丈夫だ。御飯の心配も何もしなくていいだろ?もう、何でも出来る」
「社長は…」
「私は千歳に世話になる」
…。
「いいから早く出ろ。千歳には私が言っておく。時間が勿体ないだろ。シッシッ」
「では、出掛けます」
「…成さん」
「折角だ。行こう」
「でも…」
「心配か?千歳が」
「はい」
今回の事で複雑な気持ちになってる。ちゃんと話をしてあげないと。それが先。
「千歳君が帰って来るのを待ちましょ?話をして、出掛けるにしてもそれからにしましょ。ね?」
「恵未」
あ。
「そうだよな、そうだった。親のくせに、俺は…。浮かれて。俺が先ずちゃんと話をしないとな」
「はい。それがいいと思います」
…。
「社長…、そういう事で、有り難いお言葉でしたが、直ぐには出掛けません」
「ん。そうだな、それがいい。私もうっかりしてしまった。多感な年齢の千歳を人間不信にさせてはいけない。ここぞとばかりに焚き付けてすまなかった」
社長…。
「だけど、話が終わったら、ちゃんと出掛けろよ?」
「はい」
「私は会社に戻る」
「え?」
「夜まで戻らないから」
あ。…。
「あー、そのままでいい。見送りは要らない。心配するな、鍵は私がちゃ~んと掛けて出るから。じゃあな」
…。
「二人で…ゆっくり話せって事だな。恵未」
「あ、メールだけでも。先に簡単に。お父さん帰って来たからって、千歳君に伝えておきましょ?ずっと不安だったでしょうから」
「恵未。…そうだな。俺がしよう」
「はい」
携帯を取り出しメールをした。授業中だからな。見るのは後だなって、ちょっと嬉しそうだ。
「恵未、有り難う。…妬けるくらい有り難う」
「はい?」
「千歳の事、いつも考えてくれて…」
成さん…。あ。
「伝わり難いかも知れないが、そういう恵未だから好きなんだ。恵未が好きなんだ。好きなんだよ恵未が。解ってくれるか?」
「成さん…。相手の人…愛されて結婚して、これからは愛して…もっと幸せになりますね。赤ちゃん、元気に生まれてくるといいですね」
「…恵未。…有り難う。
…浮かれてるって、さっき釘を刺されたのに。こんな事、言っては駄目かな…。みっともないか…」
「何ですか?」
「…うん。恵未…ベッドに行かないか?」
「え、あ…成さん?!」
「あー、んーやっぱり…駄目か?」
「駄目なんかじゃないです…」
自分から抱き着いた。…聞かなくていいのに。成さんは変わらない…。ずっと成さんらしい成さんだ。
「おっ。…恵未。調子がいいとか、思わないか?こんな風にって。急に…まるで節操がないだろ?」
「ううん…嬉しいです。誰もいない…二人っきりになるって中々ないですから」
「はぁ、そうか、そうだよな。…恵未」
「成さん…」
頬に右手が触れた。左手も触れた。ゆっくり顔を上向かされた。成さん…そんなに見つめられたら心臓がもちません。
恵未…と呼ばれて顔が近づいた時だ。
カチャン。カラカラ…。ん?
足音が近づいて来た。
「あー忘れ物した。あ、あった、鞄……おっと、続けて続けて。じゃあ」
…。
ブーブー、ブーブー…。
…。
「…千歳だ。はぁ。…ハハ。相変わらずだな二人は。いつもこうだな」
「はい。絶妙なタイミングで…割り込んできます。フフ」
…。
「もう大丈夫だろう」
「はい」
「恵未、部屋に行こう」
「…はい。あ」
「ん?」
「お昼ご飯は?」
「あ、うん。そこそこ減ってるけど。後だ」
「…はい」