先輩は、甘い。
「お前はもっと積極性を身につけるべきだな。自分からどんどん会話を繋げていかないと、上手くなるものもならないぞ」
「はい…」
確かにそうかもしれない。
だって、大学に入学して数週間、私は1度だって自分から英語で話しかけたことがない。
友達のカナは、どんどん交友関係を広げているというのに。
なんで上手くいかないんだろう…。
「いい提案をやるよ」
軽い自己嫌悪に陥っていると、突然、彼がそんなことを放った。
「いい提案…?」
「これから俺とお前が会った時は、必ず英語で会話する。これがいい提案」
「?どこが…」
彼の提案に疑問符を浮かべれば、彼は立ち上がってクスッと笑って見せる。
「いいか。言葉ってのは、慣れていって自然と使えるようになるんだ。
俺と英語で会話をすることで、英語に慣れろ。それができるようになれば、積極性だって身につく」
「英語に、慣れる…」
「俺の特別レッスンを受けられるんだ。次会う時までに、もっと勉強してこい」
「……」
偉そうに。
次会う時がいつかもわからないじゃない。
学年も学科も違うんだから、会わない回数の方が多いに決まってる。
「…わかりました。勉強しておきます」
とりあえず返事だけしておこうと思いながら返せば、彼はニヤリと嫌な笑顔を向けてくる。
「学年だって学科だって違うんだから、会わない回数の方が多いって思ってるだろ?」
「えっ…」
「会えるさ。俺とお前はそういう縁がある、って最初から思ってたからな」
「なにその直感…」
「俺の直感ほど当たるもんはないぞ。
まぁ、楽しみにしとけ。じゃーな」
そう言うと彼は、怪訝な顔の私を置いて颯爽と消えて行った。