先輩は、甘い。


「ハァハァ……っ、ハァ…」


『暁良先輩、留学するんだって』


カナの言葉が、頭の中をグルグルと駆け巡る。


通り過ぎる人たちの視線を浴びながら、私は必死に彼の姿を探していた。


「ハァ……っ、どこにいるの…」


気づけば私は、いつか彼と出会った『KUIS 8』で息を切らしていて、


「──凛?」


「っ!先輩…っ」


振り返ると、不思議そうな表情を浮かべる彼がそこに立っていた。


「どした?すげー息上がってんじゃん」


「…っ、」


クスクスと笑う彼の眩しさに、複雑な感情を覚えて胸を抑える。


「先輩…留学するって、本当ですか?」


「え…っ、あー…」


私の質問に一瞬驚いた顔を見せた彼は、ガシガシと頭をかいたあとに苦笑いを浮かべた。


「ったく、女子は情報回るのが速いな」


「じゃあ…」


「あぁ、留学するよ」


「っ、」


少し期待していた答えは、彼の言葉にあっさりと切り捨てられた。


「去年に希望を出してたんだ。ずっと海外の英語に触れてみたいと思ってたからな」


「…そう、ですか。おめでとう、ございます…」


「ありがとう」


「どのくらいで、帰ってくるんですか…?」


「ん?あー、1年くらいだな」


「1年……」


1年も、先輩に会えない。


突きつけられたその事実が、顔をブサイクに歪ませていく気がする。

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