先輩は、甘い。
「お前、メールでも素直じゃないんだもんなー」
「…あれでも努力したんですけど」
留学中。
毎日のように送られてくる彼からの甘い言葉は、スマホ越しでも私の頬を上気させていた。
「ま、お前がどんな顔してるかは想像つくし。
そーゆーとこも可愛いと思って送ってたからいいんだけど」
「っ、」
「ただいま、凛」
「…おかえりなさい、暁良先輩」
1年ぶりの、彼の体温。感触。
1年でパワーアップした彼の甘さは、相変わらず私の心を落ち着かせない。
「あ、そういえば先輩。進路はどうなってるんですか?」
「ん?あー…留学の経験も生かしたいし、
外務省在外公館派遣員になろうと思ってる」
「ざい…?」
「簡単に言うと、外交活動を支援するために世界を飛び回る仕事だな」
「世界を…」
「おう」
「…また、遠くに行っちゃうんですか」
「凛?」
「…行かないでください」
先輩の甘さが移ったのだろうか。
彼の服の裾を引っ張ってらしくないことを言ってみれば、彼はため息をついた。
「あ、ごめんなさ…」
「お前、なんでそんな可愛いこと言うの」
「え…?あ、」
さっきよりも近づいた彼の顔が、私の前に迫ってくる。
熱を持った唇から、彼の甘さが伝わってくるような気がした。
「なぁ、卒業したら一緒に来いよ」
「え…」
「お前も、世界を飛ぶ仕事やってみれば、って言ってんの」
「っ、」
「これからは俺のそばで毎日、Welcomeって呟いて」
出会った時の先輩はとてもムカつくやつで、甘さなんてかけらも無い人だった。
けれど先輩のことを知っていくうちに、その優しさに触れた。
そして今、溶けてしまいそうな程の甘い言葉を送ってくれる。
私も、先輩の近くで毎日Welcomeって言いたい。
でも甘さに慣れていない私は素直に言うことができないから、先輩のお手本が欲しいの。
「はいっ、暁良先輩について行きます!」
だから先輩、私に甘い言葉を呟いて。
END。