先輩は、甘い。
「くっ…くくく…はは、はっ…」
「……」
視界に映ったのは、口に手を当てて肩を震わせる男の人の姿。
お腹をかかえて下を向くその横顔はとても整っていて、私は少しの間呼吸を忘れた。
「っ…あ、あの…私に何か?」
周囲にいる人は、私とカナと笑っている彼だけ。
真後ろに座っている彼に、私は思い切って尋ねてみた。
「ふっ、くく…Oh, sorry(あー、ごめん)」
彼は震わせていた肩を落ち着けると、目元を拭って流暢な英語を話し始める。
「Gankomono is stubborn in English.OK?
(頑固者は英語でstubbornだよ)」
「あ、お、OK…Thank you」
親切な彼の言葉に微笑みながら返せば、彼は荷物を持って立ち上がった。
そして、
「え──っ」
私の頭に優しく置かれたその手の体温が、途端に全身を駆け巡ったように体が火照っていって。
「Next time when you sit here, please let me improve your English a little more and come.
At the very least you can talk to children over there.」
「Yes…」
去って行く彼の眩しい笑顔に当てられて、私はただ頷くことしかできなかった。